ベトナムでは近年、子どもの溺水事故を防ぐため、水泳教育の普及が全国的な課題となっている。地域住民が整備したコミュニティプールや学校、民間スクールなど、多様な形で「泳ぐ力」と「命を守る技術」を学ぶ機会が広がっている。

ハノイ郊外のタムフン地区では、住民が約13億ドンを出資し、約1,000平方メートルの池を地域プールへ改修した。毎年5月から9月まで子ども向け水泳教室を開講し、基礎泳法だけでなく、水中で落ち着いて呼吸する方法や浮く技術など、水難事故を防ぐための実践的な指導を行っている。
また、ハノイ市内では、小学校に夏季限定の簡易プールを設置する取り組みも進んでいる。体育教師が専門研修を受けて授業を担当し、放課後は地域住民にも開放されるなど、学校が地域の水泳教育拠点としての役割を担い始めている。
一方、民間のスイミングスクールでは、生後4か月から参加できる乳幼児向けプログラムも人気を集めている。保護者も一緒に入水し、安全を確保しながら水への適応能力や水中での基本的な生存反応を育てることを目的としている。

日本では「学校で泳ぐ」が当たり前
前日本では水泳は長年、小学校体育の重要な科目として位置付けられてきた。多くの児童が小学生のうちにクロールや平泳ぎを学び、水難事故防止のための安全教育も受けている。

近年は、老朽化した学校プールや猛暑の影響により、一部の自治体では民間施設の活用や授業方法の見直しも進んでいるが、「子どもに泳ぐ力を身につけさせる」という教育方針は現在も変わっていない。
ベトナムは普及段階へ
世界保健機関(WHO)によると、ベトナムでは2021~2024年に約580万人の子どもが水泳教育を受講し、6~15歳の泳げる子どもの割合は33%を超えた。子どもの溺水死亡数も2020年と比べ20%以上減少している。

ベトナム政府は2030年までに児童・生徒の70%が水泳と水難事故防止技能を学ぶこと、小学校の20%以上にプールを整備することを目標に掲げ、水泳教育のさらなる普及を進めている。
日本では長年当たり前だった学校水泳教育。その経験は現在、水難事故防止に取り組むベトナムにとって大きな参考モデルとなっている。子どもたちの命を守る教育として、水泳授業の重要性は今後さらに高まっていくと期待される。