ベトナム産ティラピアのフィレが初めて日本へ輸出され、寿司や刺身向けの食材として利用されることになった。世界でも品質基準が厳しい日本市場への参入は、ベトナム水産業が高付加価値食品市場へ本格的に進出する新たな節目として注目されている。

輸出を実現したのは、ベトナム・カントー市に本社を置く「ベトナム・クリーン・シーフード株式会社(Vietnam Clean Seafood Joint Stock Company)」。同社は約6か月をかけて、日本の高級市場向けに養殖方法や加工工程を見直し、品質管理体制を強化したうえで、初のティラピアフィレを日本へ出荷した。
同社のヴォー・バン・フック社長によると、日本の取引先からは、製品の品質や味について高い評価を受けているという。今後は日本市場での販売拡大に加え、米国やカナダなどへの輸出も視野に入れている。

需要の拡大に対応するため、同社では養殖エリアの拡大を進めるとともに、品質管理やトレーサビリティ(生産履歴管理)のさらなる強化を図り、各国の厳しい食品安全基準への対応を進める方針だ。
業界関係者によれば、ティラピア市場は今後も成長が期待されている。気候変動の影響で海面養殖が難しくなる地域が増える一方、ベトナムはティラピア養殖に適した自然環境と比較的低い生産コストを備えており、国際市場での競争力を高めている。
今回の日本市場への進出は、ベトナム産ティラピアの輸出が大きく伸びている時期と重なる。水産業界の統計によると、2026年1月から5月までのティラピア輸出額は約6,200万米ドルとなり、前年同期比で100%以上増加した。
現在、最大の輸出先はブラジルで、同期間の輸出額は約3,400万米ドルと全体の半分以上を占めている。しかし、日本市場への本格参入によって、従来市場への依存を軽減するとともに、高付加価値加工品の輸出拡大につながることが期待されている。
専門家は、ベトナム産ティラピアの競争力について、生産管理体制の整備が大きな強みであると指摘する。種苗生産から養殖、収穫、加工、輸出まで一貫した管理体制が構築されており、食品安全、動物衛生、トレーサビリティに関する国際基準への対応も進んでいる。
現在、ベトナムでは年間約14億尾のティラピア種苗を生産する能力を有しており、多くの企業が養殖場や加工施設への投資を拡大している。

その一例として、ソクチャン省ではタイ・キム・アイン有限会社(Tai Kim Anh Co., Ltd.)が、1日約200トンの処理能力を持つティラピア加工工場を稼働させた。同工場ではフィレ製品や丸魚に加え、高付加価値の加工食品も製造し、海外市場への輸出を進めている。
日本市場への初輸出は、ベトナム産ティラピアの品質が国際的に評価され始めたことを示す象徴的な出来事となった。今後、高品質な水産加工品の供給国として、ベトナムの存在感はさらに高まると期待されている。